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5-6。

  24, 2013 13:41
扉の前。緊張するから、3回だけ息を吸って。吐いて。
こんこんとノック。
「んー、どなたですかー」眠そうな、けだるげな、間延びした声。
「私ー。シヴー……また寝てたのか?」思わず呆れたような声になる。
私の知る限り、猫より寝る生活なんじゃないだろうか。
「だって、さすがに移動中寝るわけにはいかないしさ。やろうと思えばできるけど」
……絶対猫より寝てるよな。
あまりにけだるげな声に少し躊躇してしまう。
「まだ眠い?」
「しいて言うなら、いつも眠いかな。どうかしたの?」
私のかしげた方と反対にかしげられる首。
「うん……えっと。」
頭の中で考えていた文言をもう一度反芻して。
「あのな、さまーばけーしょんて、やるんだって。海で。近くの。」
「お祭り。で、サローメとフレイヤも誘ったんだけど断られて。どうかなって。」
どんどん焦って早口になる。……通じた、だろうか。
「お祭りかー。そうだね、人も集まるだろうし、行こうかな」
「ほんと?よかった。一人だと……ちょっと心細くて」
きっと一人で行ったら、行かないよりもっとさみしいことを思い出すから。
「それに、さすがに一人じゃ何かあった時困るしね」
アジェットがいつもの荷物、いつもの楽器を抱えて出てくるのを待って。
「子供じゃないんだから迷子になったりはしねーよ」
「あっちだってさ」軽口を叩いてから、宿を出る。

「とと、よ、……む」海に近づくにつれ、道は広く……それ以上に人が増えてくる。
手をポンチョに隠して、必死に身をよじる。
人に……触れないように。
「…大丈夫?」アジェットの心配するような声。
「……あんまし、だいじょう、ぶじゃ、ない、かも。」
「こうな、るの、忘れてた」
嘘。忘れるわけがない。でも一人じゃなくて、誰かとお祭りに行ってみたかっただけ。
思い出したくなっただけ。思い出と……自分が普通じゃないって事を。
「んー、人の少ない所は…」アジェットの誘導に従って、端へ寄る。
「む、む」つまずき、思わずアジェットの腕に支えられて。
跳ね上げた顔が、アジェットの驚いた顔を見つける。
「~っ!」思わず叫びそうになる声をかみ殺して、バンザイ。
「ご、ごめ……!わざ、わざとじゃ……!」
ああ。ああ。
ああ。
「ご、ごめんな、わざとじゃないからな……?ごめんな……?」
きっと当のアジェットより私は狼狽していたんだろう。
「とりあえず、隅っこにでも行こうか」
「私は大丈夫だから、とりあえず落ち着こう。ね?」
優しくなだめられる。
「あ、楽器とかも、大丈夫か……?」
フラッシュバックする。壊れたおもちゃ。大切な物。私の手。
「えっと、精霊にぶつかられても平気だったし、大丈夫だと思うけど」
アジェットが数回竪琴をかき鳴らし、「よし」と呟く。
「そ、そうか……よかった……。」少し胸をなで下ろす。
「……ごめんな」
「ほら、最初に握手、避けただろ……意味、分かったか?」
私は今、どんな顔をしているだろう。

一呼吸おいて。
「そんなに気にしなくてもいいのに」アジェットは困ったように笑顔を見せる。
「うん、でも、ほんとに初めに言った通り、雷の精霊に似てるんだね。私、これくらいなら元の世界で何度も経験したし、大丈夫だよ?正直、もっと想像できないような、とてつもない感覚だと思ってた」
「懐かしいなー」
……安心、させようとしてくれてるのかな。
わからない。
「……私みたいなのが、いるの?」
私みたいな、誰かのそばにいちゃいけない物が。
「うん。精霊、っていう、そうだな……意志を持った自然、なんて言い方なら、通じるのかな。雷雲が出てる時はね、雷雲の精霊があちこちをくるくる飛び回ってるの。私の歌、精霊に好かれるんだ。だからよく、言い方は悪いけど纏わりつかれて」
自然の。ものが。
「つまり、ええと、でんき、だっけ。その塊に体当たりされる感じ?」
それが自然に存在する世界。それが普通の世界。本当に?
「へぇ……そんなだったら……わたしもこんなに気にしないで済んだのかな……。」
思わず口を突いて出る。

「……アジェットは……まとわりつく、雷、きらい?」
視線を合わせられない質問。
一体どんな答えを期待しているって言うんだろう。
そういう私の卑怯な……質問に。
「そうだなあ……」
「困ったことは何度もあるけど、嫌いだと思ったことはないよ?あるべくしてあるものだし」
そんな答え。

…………。
どこまでが本気だろう。どこか達観した物言いにたくさんの気持ちがわいて出る。
本当に?もし自然じゃなかったら?なるようになった物だったら?
居るだけで困る物だったら?困るのが分かってるのに、わがままで近づいてきたら?
……アジェットは……どうする?

「その精霊の話……もう少し聞かせてくれるか?」
ノドまで出た言葉を飲み込んで、笑顔を作る。
分かってる。こんな話をしたって困らせるだけ。
だったら飲み込んで、奥に、奥に沈める。沈めて、忘れる。

「うん、どんな話がいい?偉大な、自由な、壮大な、それでいて可愛らしい、素敵で素晴らしい隣人のお話。」
「ふふ、折角だし、唄うべきかな」構えられた竪琴。
「うん……聞かせて。私もきっと、その歌、好き。」
正直な気持ち。それから笑ってみせて。
「……あんまり好きだったら、私もぶつかりに行くかもだけどな」
軽口を叩く。大丈夫、もう底まで沈ませた。
「任せて。精霊の歌なら、歌っても歌っても、歌いきれないくらいあるから」
どこか得意げな笑顔。初めて聞く異国の、歌。
私がこれから、好きになる歌。



沈めて、忘れろ。


[SummerVacation]

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